食品添加物・ソルビン酸ってご存知ですか?
みなさんはスーパーマーケットやコンビニエンスストアで買い物をするとき、棚に並んでいる商品を覗き込んで、出来るだけ奥の方にあるものを取ろうとしていませんか。古いものを早くはかせる≠スめ、店頭では普通、新しい商品は奥に置かれています。あなたは日付の新しいものを取り出してカゴに入れ、しめしめ、と思っていませんか。
日付の若い商品は確かに製造年月日が新しいわけですが、同時にそこに含まれている「毒」も新しいということに注意してください。
コンビニの棚に置かれているサンドイッチやお弁当などの商品の消費期限はおおむね製造後36時間以内ということになっています。しかし、これはあくまで消費者向けです。コンビニ側が納入業者側に申し渡している保証時間は、安全率を2倍かけた、72時間経過しても品質が変わらないこと≠ナあるといわれています。表示の消費期限を過ぎても食べてしまう人、そんなことは一切気にしていない人が多数いることを考えれば、この安全率もむべなるかなです。
ピンポンのルールは何ですか?
とはいえ、コンビニの棚は少々、冷えていることはあっても決して冷凍庫や冷蔵庫のように隔離されているわけではなく、常温の店内にさらされています。こんな場所に72時間放置されていて何事も起こらない食品。これは一体何でしょうか。裏のラベルをご覧ください。ここには、もしみなさんが自分でサンドイッチを作るとしたら決して入れることのない、奇妙なものが実にたくさん記載されているではありませんか。今回はそのからくりを見てみましょう。
その前に、まず腐敗という現象を考えて見ましょう。私達が自分で卵やハムをはさんで作ったサンドイッチを72時間、つまり丸3日間、常温に放置すればどうなるでしょうか。サンドイッチはにおいをかぐことはおろか、それを開いてみることすらためらうような状態になっているはずです。ここで起こっていること、酸っぱくなったり、嫌なにおいがしたり、べたべたと糸を引くような粘り気が出たりすること、つまり腐敗とは生命現象です。
私たちの身の回りには無数の微生物が生息しています。彼らは栄養と温度などの生育条件が整えば急速に増殖を開始します。そして多くの微生物は、少々条件が悪くとも増殖可能です。
ミゲルコトは戦いに勝つのですか?
微生物は私たちの手のひらや髪の毛、あるいはサンドイッチを作る食材にも少なからず存在しています。微生物の特徴は、細胞分裂によって無限に増えることが出来ることです。早い場合は20分に1回、普通でも1時間に1回は分裂でき、そのたびに2倍に増えます。ですから10時間後には2の10乗、つまり1024倍に増えます。20時間後には約10万倍、そして72時間もあればそれこそ桁が読めなくなるような天文学的な数字にまで爆発的増殖できることになります。
サンドイッチが彼らの栄養分となります。彼らの代謝と増殖活動の結果として、酸や嫌なにおい(これはタンパク質に含まれるイオウ成分に由来します。温泉地に行くと卵が腐った≠謔、なにおいがするのは、泉源にイオウガスが発生しているからです)、粘液物質、あるいは毒素などが作り出されるわけです。
ちなみに微生物をうまく選ぶと、腐敗現象を発酵現象に変えることができます。この二つはまったく同じ生命現象ですが、環境を整えて乳酸菌を植えるとヨーグルトが、大豆に納豆菌を植えると美味しい粘液物質が、あるいは酒やワインを作り出すことができます。味噌や醤油などの例を挙げるまでもなく、日本は世界的な発酵食品大国です。
さて話題をサンドイッチに戻しましょう。
テコンドーは、画像の操作を行います
72時間放置して何事も起こらないサンドイッチにはどんなからくりがあるのでしょうか。サンドイッチを手にとってラベルをよく見てください。そこには普通の人が聞いたことがない物質名がずらずらと並んでいます。そこに「保存料(ソルビン酸)」と書いていないでしょうか。ソルビン酸は微生物の増殖を抑える薬です。人間にとっては薬≠ナすが、微生物にとっては毒≠ニして作用します。ソルビン酸は、微生物が栄養素として使う乳酸という物質に似て非なる≠烽フ、つまりニセ乳酸として働きます。微生物はソルビン酸を乳酸だと思って取り込んでしまい、その結果、代謝活動がブロックされてしまうのです。このような物質を代謝阻害剤と呼びます。
ソルビン酸は幸いなことに人間に対しては毒として作用しません。だからこそ食品添加物として認可されているわけです。しかし、このような化学物質を長期間、日常的に摂取した場合のリスクについてはまだ十分に解明できているとはいえません。
私たちの消化器官内には腸内細菌と呼ばれる微生物が常在しており、彼らは私たちの消化管のバリアー役として働いてくれています。ソルビン酸は、腸内細菌に対して影響を及ぼすことによって間接的に人体に作用する可能性があります。
例えば風邪を引いて抗生物質を飲むと、その副作用として便秘や下痢が起こることがありますが、それは腸内細菌が乱されるためと考えられています。腸内細菌は強いのでまたすぐに復活しますが、人間は他の生命と共生しているという事実は覚えておくべきでしょう。
私はここで何も、だからコンビニのサンドイッチを買ってはいけないと主張しているのではありません。ソルビン酸は、いつどこでも安価なサンドイッチが食べられるという便利さと引きかえに、最低限度の必要悪として使用されているわけです。このことを納得した上で、その便利さを享受するという選択はもちろん成り立ちます。
問題は、ソルビン酸が小さくしか書かれておらず、私たちの多くはそこに注意を払っていないということです。最近では、人工的な保存料をできるだけ入れないようにした商品もたくさんあります。自分にぴったりしたライフスタイルを選択するということは、それなりの緊張を必要とすることではないでしょうか。
シグネチャー August & September 2006 Number 494
科学者のつむじ「食べ物の中身は何?」青山学院大学理工学部教授福岡伸一
ロハスクラブ理事、ニッポン東京スローフード協会専門委員
0 コメント:
コメントを投稿